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ひさしぶりにおいしい獲物の情報が舞い込んできた、と、野盗の頭は、ある朝、頬骨の高い赤ら顔をほころばせて言った。
「この道をやってくる女がいる。身なりは派手で、宝石をじゃらじゃらつけていかにも無用心にしているそうだ」
「そりゃあすごい獲物だぜ」と、落ち着きのない若造が跳ね上がった。
「そんなじゃらじゃらつけてる宝石は、果たして本物だろうか?」と、やせて顔色の悪い男が言う。
「それが本物なんだな」と、頭。「フルブライト商会といやあ、知らぬ者はいないほどの大金持ちよ」
「そんな金持ちがどうして無防備にここを通る?」身なりだけで言えばまっとうな事務官のような20代が、まともな質問をした。
「それは、よくわからねえ」
頭は声をひそめる。一同は余計に頭をくっつけるように寄った。かれらは実は5人兄弟で、野原で焚き火をしているだけなので、寒いせいもあった。
「じゃあ、その情報はどこから?」と、うっとおしく髪を伸ばしている若者が言った。これが頭の末弟である。
「それはよ、依頼人てのがいるわけさ」
「というと?」
「マントで顔が分からなかったが、あれは貴族にちがいねえ」
悪党5人兄弟は、依頼人に5000オーラムをもらった。かれらにとってはかなりの金額である。しかもそれは前金で、仕事をこなしたらもう5000やるというのだ。
仕事は、オリオールを始末することだった。
女性を殺すのはかれらの主義ではなかった。だが、義勇軍に入る勇気はなく、といって、しょっちゅう出現するガルダウィングに妨害されて、本来の家業である畑へも戻れなかった。かれらは5人で、スタンレー近くの街道を通過する無防備な馬車を襲い、金品を略奪したかったがことごとく失敗。どうしようもなくて、野鼠と野草で飢えをしのいでいたのである。
問題は、オリオールが屈強な警護をつけていないかということだった。5人は必死で作戦を考え、おそるおそる実行に移したのである。
同じ日、ツヴァイク領内の荒野。オリオールは珍しく一人で徒歩で移動していた。コーディネーターが時間になっても来なかったし、もう日暮れ近くになっていたのである。パブでも馬が手に入らず次の場所への移動はあきらめることにした。そこへ、息せききって、コーディネーターのミゲルと名乗る事務官ぽい若造が現れ、荷馬車をヒッチハイク。荷馬車にはオヤジと、顔色の悪い不細工な奥さんが乗っている。
「オリオールさん、宿をこれから探しても時間がかかります。この荷馬車のご主人にお願いしてみましょうか?」
「あら、そうねえ、野宿でもいいかとちょっと思ってたんだけどね」
それはいやだ、といわんばかりに体を震わせたミゲルは、コホン、と上品そうに咳払いしてから荷馬車のオヤジに話しかけた。
「おやじさん、実はもうひとつ頼みがあるのだが」
「ふぉう? 何かね?」オヤジは耳が遠いようなリアクション。
「おやじさんちに我々2人、泊めてもらうわけには行きませんかね?ただとは言いませんよ。金貨で支払います」
「掘っ立て小屋にそりゃあ、気前がいいのう」
「ええ。いいんです」と、ミゲルはまじめに言った。そしてオリオールに、話はついたと報告に荷台に戻ると、彼女はまだ資料に没頭していた。
「それ、さっきから何を読んでいるんです?」
「こないだから言っていたもの。ツヴァイクに証拠を見つけにきたのよ、私は」
「証拠……?」
ミゲルがけげんそうな顔をしたので、オリオールはにやりとして彼を見上げた。
「コーディネーターをどこへ監禁したのか、教えなさい? 命は助けてあげるわよ」
「なっ、何を、このッ、自分の立場が、そのっ」
すごむつもりが、やり慣れないのでせりふが出てこない。
「荷馬車の夫婦もグルでしょう。片方は女装なのかしら、それで? そしてこのまま自分たちのアジトにでも連れて行くつもりでしょうけどね」
オリオールは落ち着き払って続けた。ミゲルも荷馬車のオヤジも細君も固まって動けない。馬車だけは順調に走り続けている。オリオールは白虎術でかれらを操作していたのだ。
「宿を探すのに時間がかかるなんて、私のコーディネーターが言うわけがないでしょ、各地に別邸がちゃんとあるのに。そんなことも調べないで仕事にかかったのだから、依頼人が別にいるのよね。そして、この簡単な術を破れないくらいだから、人殺しもできっこないわ」
オリオールは偉そうに足を組み、こんこんと言い聞かせた。いわく、大金を前金として仕事を依頼してきても、この悪党5人が無能だということは知れている。依頼人の目的は、オリオール襲撃がしくじり、オリオールがその元凶をツヴァイク公と見誤ることだ。そのためにオリオールのビジネスの妨害をしたつもり。もちろんトラブルがはっきりと形をなしたところで、仕事をしくじった5人は口封じされる。それは、ツヴァイクの法にのっとり、盗賊は処罰されて当然だから、一切の釈明は通らないだろう。
「依頼人はテント社と名乗ったの?」
「いや」
ミゲルは思わず正直に返事してしまった。
「じゃあツヴァイクの貴族ってとこね」
ミゲルは額をこづかれて、あっけなくそうですと認めてしまった。
「でもここにグズグズしているのもなんだかな、よ、ミゲル君。このあたりにはモンスターが出るのに」
「え」
「こうなったら、あんたたちのアジトでいいから、屋内に行きましょう。でないと」
オリオールはそれまでのにこやかな表情を一変、おそろしい迫力で付け加えた。「取り囲まれて、明日には骨になってるわよ!」
ちょうど、森の方角から恐ろしいうなり声が響き渡った。術をやっと解かれたオヤジの長兄ワートと細君だった次兄のクリッツは変装をかなぐり捨てて馬車を突っ走らせた。森の掘っ立て小屋にあと2人、兄弟が残っている。モンスターが出たら、自分たちでは太刀打ち不可能。どうにかして、オリオールに助けてもらうんだ!
兄弟の目的は、この日の朝とは180度変化していた。
「この道をやってくる女がいる。身なりは派手で、宝石をじゃらじゃらつけていかにも無用心にしているそうだ」
「そりゃあすごい獲物だぜ」と、落ち着きのない若造が跳ね上がった。
「そんなじゃらじゃらつけてる宝石は、果たして本物だろうか?」と、やせて顔色の悪い男が言う。
「それが本物なんだな」と、頭。「フルブライト商会といやあ、知らぬ者はいないほどの大金持ちよ」
「そんな金持ちがどうして無防備にここを通る?」身なりだけで言えばまっとうな事務官のような20代が、まともな質問をした。
「それは、よくわからねえ」
頭は声をひそめる。一同は余計に頭をくっつけるように寄った。かれらは実は5人兄弟で、野原で焚き火をしているだけなので、寒いせいもあった。
「じゃあ、その情報はどこから?」と、うっとおしく髪を伸ばしている若者が言った。これが頭の末弟である。
「それはよ、依頼人てのがいるわけさ」
「というと?」
「マントで顔が分からなかったが、あれは貴族にちがいねえ」
悪党5人兄弟は、依頼人に5000オーラムをもらった。かれらにとってはかなりの金額である。しかもそれは前金で、仕事をこなしたらもう5000やるというのだ。
仕事は、オリオールを始末することだった。
女性を殺すのはかれらの主義ではなかった。だが、義勇軍に入る勇気はなく、といって、しょっちゅう出現するガルダウィングに妨害されて、本来の家業である畑へも戻れなかった。かれらは5人で、スタンレー近くの街道を通過する無防備な馬車を襲い、金品を略奪したかったがことごとく失敗。どうしようもなくて、野鼠と野草で飢えをしのいでいたのである。
問題は、オリオールが屈強な警護をつけていないかということだった。5人は必死で作戦を考え、おそるおそる実行に移したのである。
同じ日、ツヴァイク領内の荒野。オリオールは珍しく一人で徒歩で移動していた。コーディネーターが時間になっても来なかったし、もう日暮れ近くになっていたのである。パブでも馬が手に入らず次の場所への移動はあきらめることにした。そこへ、息せききって、コーディネーターのミゲルと名乗る事務官ぽい若造が現れ、荷馬車をヒッチハイク。荷馬車にはオヤジと、顔色の悪い不細工な奥さんが乗っている。
「オリオールさん、宿をこれから探しても時間がかかります。この荷馬車のご主人にお願いしてみましょうか?」
「あら、そうねえ、野宿でもいいかとちょっと思ってたんだけどね」
それはいやだ、といわんばかりに体を震わせたミゲルは、コホン、と上品そうに咳払いしてから荷馬車のオヤジに話しかけた。
「おやじさん、実はもうひとつ頼みがあるのだが」
「ふぉう? 何かね?」オヤジは耳が遠いようなリアクション。
「おやじさんちに我々2人、泊めてもらうわけには行きませんかね?ただとは言いませんよ。金貨で支払います」
「掘っ立て小屋にそりゃあ、気前がいいのう」
「ええ。いいんです」と、ミゲルはまじめに言った。そしてオリオールに、話はついたと報告に荷台に戻ると、彼女はまだ資料に没頭していた。
「それ、さっきから何を読んでいるんです?」
「こないだから言っていたもの。ツヴァイクに証拠を見つけにきたのよ、私は」
「証拠……?」
ミゲルがけげんそうな顔をしたので、オリオールはにやりとして彼を見上げた。
「コーディネーターをどこへ監禁したのか、教えなさい? 命は助けてあげるわよ」
「なっ、何を、このッ、自分の立場が、そのっ」
すごむつもりが、やり慣れないのでせりふが出てこない。
「荷馬車の夫婦もグルでしょう。片方は女装なのかしら、それで? そしてこのまま自分たちのアジトにでも連れて行くつもりでしょうけどね」
オリオールは落ち着き払って続けた。ミゲルも荷馬車のオヤジも細君も固まって動けない。馬車だけは順調に走り続けている。オリオールは白虎術でかれらを操作していたのだ。
「宿を探すのに時間がかかるなんて、私のコーディネーターが言うわけがないでしょ、各地に別邸がちゃんとあるのに。そんなことも調べないで仕事にかかったのだから、依頼人が別にいるのよね。そして、この簡単な術を破れないくらいだから、人殺しもできっこないわ」
オリオールは偉そうに足を組み、こんこんと言い聞かせた。いわく、大金を前金として仕事を依頼してきても、この悪党5人が無能だということは知れている。依頼人の目的は、オリオール襲撃がしくじり、オリオールがその元凶をツヴァイク公と見誤ることだ。そのためにオリオールのビジネスの妨害をしたつもり。もちろんトラブルがはっきりと形をなしたところで、仕事をしくじった5人は口封じされる。それは、ツヴァイクの法にのっとり、盗賊は処罰されて当然だから、一切の釈明は通らないだろう。
「依頼人はテント社と名乗ったの?」
「いや」
ミゲルは思わず正直に返事してしまった。
「じゃあツヴァイクの貴族ってとこね」
ミゲルは額をこづかれて、あっけなくそうですと認めてしまった。
「でもここにグズグズしているのもなんだかな、よ、ミゲル君。このあたりにはモンスターが出るのに」
「え」
「こうなったら、あんたたちのアジトでいいから、屋内に行きましょう。でないと」
オリオールはそれまでのにこやかな表情を一変、おそろしい迫力で付け加えた。「取り囲まれて、明日には骨になってるわよ!」
ちょうど、森の方角から恐ろしいうなり声が響き渡った。術をやっと解かれたオヤジの長兄ワートと細君だった次兄のクリッツは変装をかなぐり捨てて馬車を突っ走らせた。森の掘っ立て小屋にあと2人、兄弟が残っている。モンスターが出たら、自分たちでは太刀打ち不可能。どうにかして、オリオールに助けてもらうんだ!
兄弟の目的は、この日の朝とは180度変化していた。
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