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ロマサガ3の二次創作を書いているひとのブログです。
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夏のロアーヌはよく雷雨になった。
「雷が苦手でしたね、アルウェン姫は」と、ヴィクトルが優しく声をかけてくる。
よくよく見ればとてもきれいな顔立ちで、名家の出の若者らしさ全開の立ち居振舞い。
下手をすれば皇太子よりは美形かも、とアルウェンは分析する。だが、それは強引でぶっとんだところのある皇太子の性格と、控えめなこの弟君を比較しているからかもしれない。
「東方から伝わった話ですが、雷には、いわれがあるんです」と、彼は考え中のライトが頭上にともったアルウェンに続けて語る。

昔むかし、あるところにとても美人の姫がいました。
そこに現れた見知らぬプリンスと恋仲になる姫。
プリンスは雷使いだったので、
姫は雷を使うところを見たいといいました。
しぶるプリンス。
へえ、アタシにねだられても拒否するんだー、へえ。
いじけてしまう姫に、プリンスは、「じゃ見せるっす」。


「それで、どうなったのですか?」
アルウェンの声は震えた。
この話、聞くのは初めてではない。
設定が多少違うけれども、恋人に雷をねだるという根幹の話は、メッサーナに伝わる神話伝説本で読んだのだ。そしてその話では、間近で雷にふれた姫は感電死してしまう。以来、雷には雨がつきものになった――雷撃を操る彼の涙として。

ヴィクトルはにっこりした。
「気になるでしょう? そうだ、もうすぐ東方の祭りのタナバタにあわせて、これをイベントにしたてましょう。ノール男爵と母上に手伝ってもらって、アルウェン姫が楽しめる企画にしますよ」
「あの、悲しい話ではないのですか?」
アルウェンは不審そうに聞く。
「ええ、ハッピーエンディングです。ほんのりとペーソスが加わりますがね」

ハッピーエンディング!?
ペーソス!?

アルウェンは嫌な予感がしてきた。

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 水上は嵐が通過しているらしかった。いつもは穏やかに注ぐはずの日差しが、水神の王宮のどこにも届いていない。ただ時折、銀色をきらめかせて小型の淡水魚が回廊を通過していき、波の影響で、水面に向かって立つ幾筋もの藻がゆらりと妖しい美女のような動きをする。それ以外は静寂に包まれ、王宮は眠っているかのようである。そこへ、唯一、ヒタヒタと、規則的なサンダルの足音がバルコニーのほうへ向かっていた。
 ガタン、と扉が開く音が響き渡った。広いバルコニーの奥で大理石の小さなテーブルを囲み、水神は持ち上げたチェスの駒をどこに置こうか思案しており、入ってきたお気に入りの小姓を振りかえろうともしない。彼の相手は湖底の主らしき老齢のエビである。肩まで巻き毛を垂らした小姓が彼の傍にそっと水晶の杯を置く。
「ちょうど喉が乾いていた、いい頃合だ、ジルベルト」
 ナイトをふたつばかりずらし、水神は水色に光る銀髪を乱暴にかきあげ足を組みなおした。エビがヒクッとひげを揺らした。水神はにやりと少年のような笑みを浮かべ、
「チェック」
「うむぅ。ジルベルト、わしにも勝利をもたらす美酒をわけてもらえんかの」
 エビはひげをうねうねと回しながら負け惜しみを言う。ジルベルトは静かにエビのために注いだ。
「お二人とも勝つように祈っておりますとも」
「そんなことが果たして可能かね?」エビはキングを逃がしながらぼそりと言った。
「当然だね。勝つようにと、等しく祈らなければ」と、水神は今度は迷わずにクイーンを差し向けた。「チェックメイト」
 エビは斜めに顔を上げて声は立てないが笑ったようだった。
「また参りましょう」
「うん」

 エビはジルベルトにも丁寧に頭を下げ、後ろ向きにバルコニーから泳ぎ出していった。どこからかこぼり、と白い泡がひとつ上っていく。
「ジルベルト」水神はチェス板を眺めていたがふと言った。
「はい」
「お前もこのゲームをしてみないか。地上には全く同じものはないというが、私の相手、お前ならできるであろう。エビとの勝負を何度も見てルールくらいは覚えているだろうからな」
「きっと相手になりますまい」
「いいから、そこへ座れ」
 水神はエビのいた席を指差してせかした。ジルベルトはいわれるままに腰を下す。水神は白の駒を彼に持たせ、先手をうつよう命じ、うなずいたジルベルトは躊躇無くナイトから動かした。はじめは余裕で構えていた水神も、段々と真剣な顔になってきた。ジルベルトの知能の高さ、判断の素早さ、記憶力の良さときたら、あの腰のまがりまくったエビとは各段の違いだ。
 ただ漫然とゲームを見ていただけのはずなのに、この小姓は水神の打つ手の癖までもマスターしていた。しかも調子にのってチェックを乱発するでもなく、目先の危機に大事な駒を犠牲にすることもしない。ところが、圧倒的に有利な進め方ができるにもかかわらず、水神の勝機は残したままである。それはプレイヤーとしての未熟さゆえか、それともできる者の余裕なのか。
「ジルベルト」
「はい」
「お前ほど聡明な奴が、なぜ無謀にもあのとき舟に乗った?」
 小姓は顔を上げた。「あのとき」とは、ジルベルト18歳の初夏。水神が嵐で舟を沈めジルベルトをこの王宮へとさらってきたときのことである。
「ここへ……来たかったからでございましょう」
「そうか? お前が故国でどれほど将来を嘱望され、しかもそれに応えるだけの能力があったと知らないと思うのか? すべてを宿命と諦め、何も無い湖底のさびしい王宮へ沈んでいきたがるのは、たとえば身のほど知らずの恋に破れた乳絞りの娘くらいなものであろう」
 ジルベルトは、どこか意地になったらしい水神に親友に対するような微笑を向けた。
「その娘と私はきっとたいして違いません」
「お前は、名門貴族の出だ。そして、王にもっとも近い地位まで約束されていた」
「それでも――」
「世俗的な栄達をのぞまぬなら相応の道も選べたであろう。そしてそこでやはり名を残すこともできたであろう」
「それでも――」
 水神はできのよすぎる小姓を言い負かそうと、次の光景を思い描こうとした。しかし、それは予想もしなかった場面であった。
 ジルベルトは部下に何でも任せず自分で道具を選び調達する習慣があり、町の道具屋とはすっかり顔なじみになっていた。たまに道具屋の主が留守のときがあって、不慣れな娘がもたもたと対応した。ジルベルトはそれでも怒ったりせず、逆に、何度訪れても不慣れなまま、恐縮してもたつく娘に好感を持った。
 それは恋愛感情ではなかったはずだが、世間話で間を持たせる術も知らず、必要といわれたもの以外は変にすすめることもしない、そういう素朴さと親切心が新鮮に思えたのだ。
 けれども、あるとき彼女そっくりの姉らしき女が隣に座っていた。ジルベルトが度々来るというのを意識していた様子で、道具を出すより話ばかりしたがりどう考えても不要なものまで試させようとした。何より態度が図々しく、化粧が濃かった。
 その瞬間に、妹もまた今の素朴さは失せてこの姉のようになるのだという失望がジルベルトを捕らえた。この妹だけではない、素朴で親切に見えている多くの人がきっとこうなるのだ。
 冷たく透き通った残忍さが、ジルベルトの中に首をもたげた。

「……私は本心でかれらのいる国を愛することができない、この世界を愛することができない。そんな自分が権力や地位をあてがわれたらどうするでしょう?」
「お前はそこまでわかっていた。堕落はしなかったはずだ」
 水神は、そこでジルベルトのキングが無防備でぽつんと立っているのを見た。
「チェック」
 ジルベルトはそう言われてチェス盤に目を落とした。そして一瞬、その優しい瞳がスパークした。全く警戒していない場所からビショップが攻め込む。
「チェック・メイト」
 この瞬間、水神は、髪を振り乱し敵国の王を殺し、首をかかげる彼の姿を見た。名君と呼ばれる資質を有り余るほど持ちながら、乱世のもととなっていく若き王の姿。
 しかけられた戦に勝つので、誰もこれを堕落とは呼ばない。けれど一度深淵を覗いてしまったジルベルトは、その勝利の中にも、栄光の中にも、埃っぽい道具屋で感じた失望を見ざるを得ない。
 たとえば身のほど知らずの恋に破れた乳絞りの娘。
 ジルベルトは自分の属する世界にこそ失恋した。そして、結末として死を選ぶというときに、敢えて水神の誘いを利用したのだ。

 我に返ったジルベルトは少し青ざめた。主を負かしてしまうつもりはなかった、とその貴婦人のような顔にありありと書いてある。
 抜け目無く、傲慢で、負けることを知らない若者!
 水神はくすくす笑いながら、軽く両手をあげて投了の合図をした。
「上手いじゃないか。よし、もうひと勝負」と、水神は言った。

~~~~~~
フォルネウスもののオリキャラ・ジルベルトの番外編。(この説明でわかるかなあ?)
ジルベルトのイメージを崩すなというリクエストなんですけど、そこは微妙(殴)
尚、ロアーヌにはチェスそのものはないという設定です。

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