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ロマサガ3の二次創作を書いているひとのブログです。
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ヤン・ヒョウ、老師を訪ねる

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市街地にだいぶ近いところまで火の手が迫っていた。水路の水だけではもはや足りない。そして、術使いたちが次々とモンスターに倒され、火災渦は消えてもまた別の場所で発生した。
玄城ではまとこしやかに世界の終末がささやかれ、商店は次々と店を閉めた。閑散とした通りには、それでも警備の兵士が不安そうに見張りを続けている。
そこから西へ数キロの平原地帯。夕方。ヤン・ヒョウは愛馬を飛ばしながら、背後に来る気配をさきほどから察知していた。左右に一体ずつ、姿を見せないが、動きの早い地狼が速度をゆるめずについてきている。
この先の丘をくだったところに、老師バイメイニャンの庵があった。考え事に集中するとき、老師はそこにひきこもってしまう。今回は、玄城がいよいよ危険だというので、どうすべきか策を練っているらしかった。
ヤン・ヒョウは手綱を放し、両手で腰の短い矛を抜いた。
カッカッカッ。馬は同じ速度で走り続けている。そこへ左右から獲物を捕らえる構えの地狼がジャンプ、と同時に、ヤン・ヒョウは、両手の矛で二匹を同時に切り裂いた。手ごたえとともに短い悲鳴が上がる。血飛沫が、芸術的な線を描いて散った。
ドスッ。二体が同時に草の上に落ちた。
カッカッカッ。ヤン・ヒョウは振り返りもせず、矛をくるっとまわして鞘に収める。そして少し興奮気味の愛馬の首を軽くたたいてねぎらった。
「よく頑張った。老師の小屋で水をやるからな」

庵に到着した若い将軍を、老師は無愛想ないつもの様子で迎えた。
「老師、ここへ来る途中に私が何体の化け物を倒したか当ててください」
「愚問じゃな、ヒョウ。少なく答えれば、実際の危険を訴え、多く答えれば、危機感があるならといって、要するに避難させよう魂胆じゃろうが」
そうは言いつつも、老師はとっておきの梅茶を差し出す。熱くも冷たくもなく、乾いた喉に心地よい香り。彼がそのお茶を好物なことはよく知っていた。ヤン・ヒョウはそれを一息に飲み干してにっこりしてから、その場に座り込んだ。
「避難していただくには理由があります。井戸の水はなく、平原の川は枯渇。どこからともなく沸いてくる敵にじわじわと包囲され、兵たちも疲弊しております。玄城はもう持ちますまい、しかるに、父上と私は最後まで死守いたします。母上も、説得はしましたが弓を手放す気がなさそうで、そうなると親子3人討ち死にです」
そんなことを、彼はいかにもさっぱりと言った。老師は、黙って香をたいている。
「私が気がかりなのは、エイのことなんです。弟はまだ15歳。老師までいなくなれば、不憫です」
老師は、しばらく無言だった。が、ヤン・ヒョウがその沈黙に対抗して身動きひとつしないので、説得に応じたような、大きなため息をついて言った。
「エイは、あの子は、お前たちが死ぬようなことになるのを黙って西の国で眺めてはいまいよ」
ヤン・ヒョウは黙っていた。老師は、何かを読み取っているような口ぶりなのだ。
「あの子の術は天性のものじゃった。教えもせんのに風の道を見、その力をらくらくと操った。そなたに雷を落としたといっておったが」
「はい、新しい術を開発するとかなんとか申しまして」
「雷。それこそがあの子の本質じゃ。そこに自分で気づいたとき、エイはどこに行けばよいか知るじゃろう。弦の音に導かれ、未踏の地にたどりつき、そして、あの子のすることに玄城の人々はきっと……目を見張る」

その言葉を、老師は美しい花でもめでているかのような、穏やかなまなざしで呟いた。
結局、ヤン・ヒョウは老師の説得にしくじった、と思った。
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