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テント社の船団はBBを包囲するように不気味に近づいてきていた。ファルコはこれを見ても焦らず、小回りのきく船体を生かしてかく乱の作戦である。横波が激しさを増し、風が渦を巻いているようだった。マリノは忙しく帆を調整し、フローレンスが火薬を主砲に詰め、ジャーヴィスが距離を測った。
そのときコッティが突然言った。
「あの船団のうちで、半分は幻覚よ!」
ファルコらは驚いて振り返った。とても幻覚とは思われない実体が見えているからだ。だが言われてみれば、船そのものは帆のはりかたがでたらめである。コッティは確信を持っている。
「あの2番目についている黒っぽい船がいるでしょう、あそこに術使いが乗っているの。船は沈没船を術で浮上させてあるし、乗っているモンスターの兵士はフェイクよ」
サヴァが涼しい顔で付け足した。「あれに突進したらたやすく囲まれるってことね」
ファルコはそう聞くとにやりとした。
「そう思わせておこうか。この風を乗りこなせるのはBB以外にないと思い知らせてやる」
BBは身軽に海上を滑っていった。モンスターの乗る幻覚の船に向かうと見せかけると、敵の一味を乗せた残りが追ってきた。
「右舷、一斉に撃つぞ、用意は!」
「いつでも!」
ファルコは舵を一杯に切った。見事に旋回したBBは、追ってきた敵がまだ準備もできないうちに、その横船体に風穴をあけ始めた。煙とともに轟音が響き渡る。反撃の砲弾は、BBの手前の海面でいくつか水柱を上げた。乗組員はこぶしをつきあげて威嚇しているが、攻撃しようにも何一つ届かない。BBの性能はこのクラスの船としてはピカ一だ。
蜂の巣にされ早くも傾きかけた敵の船は、マリノが余裕で確認したところでは「ビクトリー」号という皮肉な名前がついていた。これが一対一ならばすぐさま乗り込んで、あれこれ失敬するところだが、今回は次の船に追いつかれる前に、BBはその場から離脱。
次に相手にした船の名は「フォルナータ」号、互いに砲撃したが敵も動きが素早く、ビクトリー号ほどあっさりとは倒せない。しかしついにファルコがタイミングをとらえた。合図とともにフローレンスの主砲が火を吹き、フォルナータのフォアマストに一撃を食らわせたのである。反撃はシビアで、きわどいところだったが、BBはうねる風をうまくとらえて離脱。5隻を沈めた後、嵐にてこずる敵が1隻、前方に見つかる。
BBの連中は調子が上がっていた。カットラスやフランシスカを打ち鳴らし、マリノがはじめた鼻歌を全員で怒鳴るように歌う。
♪ヘイ、ホーウ、真っ白けのアルバトロス、南の果てを見てきたか
サヴァはメインマストの上で元気にその声に加わった。
彼女はその歌を小さい頃からよく知っていたし、とても気に入っていた。BBの面子がブラック邸に来ると、お酒もはいってすぐこんな風に歌いだす。そしてサヴァのひときわ澄んだ歌声は、ちょっと加わるだけで歌そのものをいっぺんに引き立て、宴が盛り上がって夜中まで続くことがあった。笑い声に波音が混じり、炎の明かりが海面にゆらめく。BBとともにあるグレートアーチの記憶は、強烈な嵐の恐ろしいパワーや凪の日の潮の香りにいたるまで、サヴァの心に染み付いている。
♪ヘーイ、ホーウ、ホーウラー、ヤア!
ファルコのちょっとしたしぐさを見て、さっと歌が止む。次の標的がいよいよ間近だった。ファルコが的確にその船の弱点を教え、全員で猛攻をかけた。「ペールエール」号の船長は勇ましくもBBに鉤を投げ込ませ、一味が乗り込んでこようとした。
マリノとフローレンスは下を覗き込み、あがって来いの合図をして挑発。これに乗って、浅はかにも船体にはりついた数人をタールが直撃、そこでコッティが指先に炎をぽっと点してにっこり微笑んだ。
ボウッ!
悲鳴と炎のかたまりは、即行で海に落下。これがキューとなった。
「やっちまえ」
今度はBBの連中がペールエールに飛び乗る番だ。ジャーヴィスが得意の蹴り技で3人を倒して上を見ると、サヴァが碇を吊ってあるロープの上で、敵2人と渡り合っていた。飛びぬけてバランス感覚がいいサヴァは、ロープの上にいる敵の持つ剣を土台に頭上をジャンプ。あたふたする2人を見て、ちょっと小首をかしげ、剣を逆手に持って柄で叩きのめした。2人はあえなく落下。サヴァはその脇にひょいと降り立った。
ファルコは甲板を走り、反撃も逃走もできないうちにパンチを数発浴びせ、赤ら顔のでっぷりした船長を捕らえた。
「……その服装、ふるぼけてはいるがかつては確かな地位の船を預かっていた身か。裁判にかけてやる、悪事に加担した罪を償え」
「生意気な小僧めが! ワシはかの有名なブルーマリーンの生き残りだぞ!」
ファルコの怒りに火がついた。
「悪党のくせに、その名を口にするかっ!」
ファルコのカットラスはごってりした服を真半分に裁断した。そして、裸にされて大騒ぎする船長の、細工だけは見事な剣を蹴り飛ばしながら甲板を急いで横切って行き、ジャーヴィスにすれちがいざま怒鳴った。
「あいつをふん縛っとけ!」
「アイアイサー」ジャーヴィスはご機嫌でいった。
ファルコは、一味を殺さず、ほかの敵船同様、ペールエールは航行不能にした。
「こんな沖でどうしろっていうんだ?」船長が文句をいうのでマリノが言った。
「あるだろうよ、帆もついた救命艇がな」
「食料もあるよ。奥にあったマメは、シチューにするのが一番美味い。あの緑のナッツはソースにしてみろ、チキンがあれば合うんだが、魚にも使える」と、フローレンスはレシピの説明までしかねない勢い。
ファルコは笑いをおさえながら、悪態をつく船長に右手の指で軽く挨拶してやった。
「一番近い陸地は120キロ先の火山島だ。じゃ、幸運を祈る」
BBが西へ滑っていくと、かなり後方にはあのフォルナータがついてきている。
「フォルナータにも乗り込むか、ええ、ファルコ?」ジャーヴィスがエキサイトして言った。
「駄目だ」ファルコはあくまで冷静。「マストを修理しないうちはBBに追いつけない。次の標的ならあの黒い船だ」
二時の方向にぽつんと停船している黒い船には金色で「マジシャン」と書かれていた。
「嵐と、敵と両方に勝って、予見通りここに現れた」モレスコが、灰色のフードの下で無表情で言う。
「結局使えたのはフォルナータくらいなものだわ。ごろつきの寄せ集めは考え物ね」
マグノリアは赤い髪をなびかせて言った。そのいでたちは、リゾートで遊んでいるかのように軽やかかつ鮮やかで、武装といえるのは精巧な細工のある赤いレザーの胸当てくらいなもの。素手のまま武器も持たず、足元は9センチあるヒールのグラディエータサンダルである。そもそも長身のマグノリアは、船首に立つと、場違いなモデルがいるようで、明らかに目を引いた。
その黒い船がゆっくりとBBに向かって方向を変える。
「正面からくるつもりらしい」マリノが驚いて言った。「ものすごい速度だ」
ファルコは甲板の中心に立って、フフンと鼻を鳴らした。
「まともな船乗りじゃないさ。あの帆の扱いを見てみればわかる」
術で船を動かしている。前回もその「ありえない」動きに苦戦を強いられたのだ。船首の赤毛の女もどこか異様だが、その向こうにいる灰色のマントのほうがもっとたちが悪い。
前回衝突したときもこの連中は後方にいた。そして、どうやら今度のほうが、灰色マント野郎の術がアップしている。
BBが逃げるのを待っている。だが逃げても追いついてくるだろう。
ファルコは、後ろを向き、「激しい戦いになるぞ、油断するな」と、言った。
おおーっ、と歓声が上がった。
しかし、マリノに舵を任せたファルコは、船尾階段でサヴァを見つけると両肩をつかみ、深刻な顔で言った。
「決して、最前線には出るな」
「でも――」
「やつらの狙いはお前だ、サヴァ」
「え、どうして!?」
「アビスにおそらくその理由がある。あの魔術師は人間というよりそういう異界の使者に違いないと思う。お前が聖王遺物の剣を使いこなすから狙うのか、そこははっきりとはわからない。だがいいか、俺たちは、何としてもお前を守り抜く」
「待って」サヴァは行こうとしたファルコの手をつかんで必死に言った。「占いで、猿の道化師が死ぬって出たの。多分、ジャーヴィのことなの。彼を、援護してあげて」
ファルコは彼女のつかんだ手をそっと握り、優しく微笑してから言った。
「コッティ様にマリノも厳命されたってさ。心配いらないよ」
その頭上には灰色の雲が垂れ込めてきていた。BBは突如始まった風におされ、左右に大きく揺れる。甲板はいままでにない緊張に包まれた。
コッティはとびはねるようにサヴァの側に来て、何も言わずに顔を覗き込み、サヴァがちょっと微笑むと、いつもどおり偉そうに肩を軽く叩いた。
そのときコッティが突然言った。
「あの船団のうちで、半分は幻覚よ!」
ファルコらは驚いて振り返った。とても幻覚とは思われない実体が見えているからだ。だが言われてみれば、船そのものは帆のはりかたがでたらめである。コッティは確信を持っている。
「あの2番目についている黒っぽい船がいるでしょう、あそこに術使いが乗っているの。船は沈没船を術で浮上させてあるし、乗っているモンスターの兵士はフェイクよ」
サヴァが涼しい顔で付け足した。「あれに突進したらたやすく囲まれるってことね」
ファルコはそう聞くとにやりとした。
「そう思わせておこうか。この風を乗りこなせるのはBB以外にないと思い知らせてやる」
BBは身軽に海上を滑っていった。モンスターの乗る幻覚の船に向かうと見せかけると、敵の一味を乗せた残りが追ってきた。
「右舷、一斉に撃つぞ、用意は!」
「いつでも!」
ファルコは舵を一杯に切った。見事に旋回したBBは、追ってきた敵がまだ準備もできないうちに、その横船体に風穴をあけ始めた。煙とともに轟音が響き渡る。反撃の砲弾は、BBの手前の海面でいくつか水柱を上げた。乗組員はこぶしをつきあげて威嚇しているが、攻撃しようにも何一つ届かない。BBの性能はこのクラスの船としてはピカ一だ。
蜂の巣にされ早くも傾きかけた敵の船は、マリノが余裕で確認したところでは「ビクトリー」号という皮肉な名前がついていた。これが一対一ならばすぐさま乗り込んで、あれこれ失敬するところだが、今回は次の船に追いつかれる前に、BBはその場から離脱。
次に相手にした船の名は「フォルナータ」号、互いに砲撃したが敵も動きが素早く、ビクトリー号ほどあっさりとは倒せない。しかしついにファルコがタイミングをとらえた。合図とともにフローレンスの主砲が火を吹き、フォルナータのフォアマストに一撃を食らわせたのである。反撃はシビアで、きわどいところだったが、BBはうねる風をうまくとらえて離脱。5隻を沈めた後、嵐にてこずる敵が1隻、前方に見つかる。
BBの連中は調子が上がっていた。カットラスやフランシスカを打ち鳴らし、マリノがはじめた鼻歌を全員で怒鳴るように歌う。
♪ヘイ、ホーウ、真っ白けのアルバトロス、南の果てを見てきたか
サヴァはメインマストの上で元気にその声に加わった。
彼女はその歌を小さい頃からよく知っていたし、とても気に入っていた。BBの面子がブラック邸に来ると、お酒もはいってすぐこんな風に歌いだす。そしてサヴァのひときわ澄んだ歌声は、ちょっと加わるだけで歌そのものをいっぺんに引き立て、宴が盛り上がって夜中まで続くことがあった。笑い声に波音が混じり、炎の明かりが海面にゆらめく。BBとともにあるグレートアーチの記憶は、強烈な嵐の恐ろしいパワーや凪の日の潮の香りにいたるまで、サヴァの心に染み付いている。
♪ヘーイ、ホーウ、ホーウラー、ヤア!
ファルコのちょっとしたしぐさを見て、さっと歌が止む。次の標的がいよいよ間近だった。ファルコが的確にその船の弱点を教え、全員で猛攻をかけた。「ペールエール」号の船長は勇ましくもBBに鉤を投げ込ませ、一味が乗り込んでこようとした。
マリノとフローレンスは下を覗き込み、あがって来いの合図をして挑発。これに乗って、浅はかにも船体にはりついた数人をタールが直撃、そこでコッティが指先に炎をぽっと点してにっこり微笑んだ。
ボウッ!
悲鳴と炎のかたまりは、即行で海に落下。これがキューとなった。
「やっちまえ」
今度はBBの連中がペールエールに飛び乗る番だ。ジャーヴィスが得意の蹴り技で3人を倒して上を見ると、サヴァが碇を吊ってあるロープの上で、敵2人と渡り合っていた。飛びぬけてバランス感覚がいいサヴァは、ロープの上にいる敵の持つ剣を土台に頭上をジャンプ。あたふたする2人を見て、ちょっと小首をかしげ、剣を逆手に持って柄で叩きのめした。2人はあえなく落下。サヴァはその脇にひょいと降り立った。
ファルコは甲板を走り、反撃も逃走もできないうちにパンチを数発浴びせ、赤ら顔のでっぷりした船長を捕らえた。
「……その服装、ふるぼけてはいるがかつては確かな地位の船を預かっていた身か。裁判にかけてやる、悪事に加担した罪を償え」
「生意気な小僧めが! ワシはかの有名なブルーマリーンの生き残りだぞ!」
ファルコの怒りに火がついた。
「悪党のくせに、その名を口にするかっ!」
ファルコのカットラスはごってりした服を真半分に裁断した。そして、裸にされて大騒ぎする船長の、細工だけは見事な剣を蹴り飛ばしながら甲板を急いで横切って行き、ジャーヴィスにすれちがいざま怒鳴った。
「あいつをふん縛っとけ!」
「アイアイサー」ジャーヴィスはご機嫌でいった。
ファルコは、一味を殺さず、ほかの敵船同様、ペールエールは航行不能にした。
「こんな沖でどうしろっていうんだ?」船長が文句をいうのでマリノが言った。
「あるだろうよ、帆もついた救命艇がな」
「食料もあるよ。奥にあったマメは、シチューにするのが一番美味い。あの緑のナッツはソースにしてみろ、チキンがあれば合うんだが、魚にも使える」と、フローレンスはレシピの説明までしかねない勢い。
ファルコは笑いをおさえながら、悪態をつく船長に右手の指で軽く挨拶してやった。
「一番近い陸地は120キロ先の火山島だ。じゃ、幸運を祈る」
BBが西へ滑っていくと、かなり後方にはあのフォルナータがついてきている。
「フォルナータにも乗り込むか、ええ、ファルコ?」ジャーヴィスがエキサイトして言った。
「駄目だ」ファルコはあくまで冷静。「マストを修理しないうちはBBに追いつけない。次の標的ならあの黒い船だ」
二時の方向にぽつんと停船している黒い船には金色で「マジシャン」と書かれていた。
「嵐と、敵と両方に勝って、予見通りここに現れた」モレスコが、灰色のフードの下で無表情で言う。
「結局使えたのはフォルナータくらいなものだわ。ごろつきの寄せ集めは考え物ね」
マグノリアは赤い髪をなびかせて言った。そのいでたちは、リゾートで遊んでいるかのように軽やかかつ鮮やかで、武装といえるのは精巧な細工のある赤いレザーの胸当てくらいなもの。素手のまま武器も持たず、足元は9センチあるヒールのグラディエータサンダルである。そもそも長身のマグノリアは、船首に立つと、場違いなモデルがいるようで、明らかに目を引いた。
その黒い船がゆっくりとBBに向かって方向を変える。
「正面からくるつもりらしい」マリノが驚いて言った。「ものすごい速度だ」
ファルコは甲板の中心に立って、フフンと鼻を鳴らした。
「まともな船乗りじゃないさ。あの帆の扱いを見てみればわかる」
術で船を動かしている。前回もその「ありえない」動きに苦戦を強いられたのだ。船首の赤毛の女もどこか異様だが、その向こうにいる灰色のマントのほうがもっとたちが悪い。
前回衝突したときもこの連中は後方にいた。そして、どうやら今度のほうが、灰色マント野郎の術がアップしている。
BBが逃げるのを待っている。だが逃げても追いついてくるだろう。
ファルコは、後ろを向き、「激しい戦いになるぞ、油断するな」と、言った。
おおーっ、と歓声が上がった。
しかし、マリノに舵を任せたファルコは、船尾階段でサヴァを見つけると両肩をつかみ、深刻な顔で言った。
「決して、最前線には出るな」
「でも――」
「やつらの狙いはお前だ、サヴァ」
「え、どうして!?」
「アビスにおそらくその理由がある。あの魔術師は人間というよりそういう異界の使者に違いないと思う。お前が聖王遺物の剣を使いこなすから狙うのか、そこははっきりとはわからない。だがいいか、俺たちは、何としてもお前を守り抜く」
「待って」サヴァは行こうとしたファルコの手をつかんで必死に言った。「占いで、猿の道化師が死ぬって出たの。多分、ジャーヴィのことなの。彼を、援護してあげて」
ファルコは彼女のつかんだ手をそっと握り、優しく微笑してから言った。
「コッティ様にマリノも厳命されたってさ。心配いらないよ」
その頭上には灰色の雲が垂れ込めてきていた。BBは突如始まった風におされ、左右に大きく揺れる。甲板はいままでにない緊張に包まれた。
コッティはとびはねるようにサヴァの側に来て、何も言わずに顔を覗き込み、サヴァがちょっと微笑むと、いつもどおり偉そうに肩を軽く叩いた。
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