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ロマサガ3の二次創作を書いているひとのブログです。
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ロアーヌ留学中のアルウェンだが、雨ばかりのこの季節はあまり好きになれない。ましてや、大嫌いなのは雷だった。ところがロアーヌの人々は雷が苦手ではないらしく、フェルディナンドはごぞごぞと実験しているし、ヴィクトルは絵にしようとするし、ミカエルカタリナ夫妻は全く気にせず語り合っている。一番困るのは、シノン男爵夫人モニカが、好んでアルウェンの傍に来て、顔を下から照らしながら、シャンデリアのろうそくが1度に風で消えるのを待っていることである。

そんな憂鬱なアルウェンに侍従長からこんな提案がなされた;
「このたびロアーヌでは、メッサーナの聖人パウルスの日にちなんで、王宮の宝物を一般公開することとなりました。留学中のアルウェン様におきましては、その案内係としてロアーヌを歴史体験なさるのもよろしいかと存じます」

「よろこんで、やらせていただきます」と、真面目なアルウェンは答えた。
早速カタリナに相談し、案内に必要な資料に目を通すアルウェン。今年は留学らしい夏を過ごせると期待に眼も輝く。

この仕事、企画はシノン男爵夫妻、デザインはヴィクトル、広報はトーマス・ベント・カンパニーであり、場所はロアーヌ宮の一角。ロアーヌはもとより、どこからの来場も無料である。たった3日の期間中、数万人の来場が見こまれている。
ただしアルウェンは、「タダならなんでも意味もなく見るし、どこにでも行く」人がそんなに多いとは夢にも知らない。

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初日前日、中を見て回ったアルウェンと仲間はとても満足だった。
入り口にはまず、ロアーヌ王家の祖であるフェルディナンドの凱旋石碑が飾られている。アルウェンは苦労せずにこの石碑にまつわる逸話を覚えてきた。
それから、中盤の目玉はミカエルとモニカが幼少の頃、森で突如出現した白銀の剣である。よく手入れされ、とても昔のものとは思えない。
さらに、先の冒険に出たときの、ミカエル、モニカ、カタリナ、ユリアンの着用していたアーマーや剣やブーツが並ぶ。アルウェンはそれぞれの得意技や、ゲートを閉じるときの話などをしっかり暗記してきた。そして資料の中にはユリアンがたびたび敵に魅了されたと書いてあったが、それは聞かれても答えない方がいいと自分で判断し、ノートから抹消しておいた。
次は、ユリモニ及び、ミカカタの結婚式があったミュルス大聖堂の宝物の数々。貴重なステンドグラスも貸し出されている。きれいな色合いはアルウェンのお気に入りだ。
最後にあるのはマスカレイドである。パネルはこの剣がダガーサイズから大きく変形する、その不思議な仕組みを図解している。しかしそんな謎解きはなくとも、やはりこの剣は美しいし、結局この剣はロアーヌ王夫妻を見事にくっつけたと思う。
そして、出口の傍のマホガニーの棚にはミュルス陶器による花瓶が置いてあり、そこには真紅のバラがいけられている。アルウェンはこの宝物の前で案内をするのが一番待ち遠しい。そのバラこそ、アルウェンの母上の名がついたトリオール・ローズなのである。ドラマチックな歴史を持つ、華やかなようで控えめなその花を、アルウェンはことのほか愛していた。

初日――。
入り口付近でオーダーメイドの衛兵の正装衣装を着込み、(おなじ衣装の案内係たちにも似合うね可愛いねと言われつつ)持ち場についたアルウェン。ロアーヌ宮でも静かな一角であるその場所が、うねる荒海のような轟音に包まれていた。
ちょっとたじろぐアルウェンの目の前で、門がぐりぐりと開かれた。同時にどっと人がなだれ込んできた。シノンの団体客である。
「カタリナ妃の衣装はどこにあるの?」
「早く着たいわね、アナタきっと似合うわよ、ふふふふ(自分のほうが百倍似合うとじつは思っている)」
「いえいえいえ、アナタだけ着なさいよ。ふふふふ(手をバタバタ振り否定しつつ、着る気まんまん)
 一行、前方に衣装を見つけて、
「向こうにあったわ、奥さん」
「んまー、やっぱり仕立てがいいわね」
「たしか試着できるんですね?」
アルウェンは急いで言う。「試着は、試着コーナーの衣装のみとなります。受付で整理券を…」
「あらっ。整理券をとりにまた受付まで戻るの? 今はいった人が得じゃないの!」
アルウェンはできるだけ丁寧に。「十分に数がございますので」
そこへミュルス術店からきたというおじさん。
「この石碑はレプリカでしょ?」
「本物です」と、アルウェン。「それより、その、ふかしジャガバターお食べになってますか?」
「あはは、わかる?だめなの?」
わかりすぎる。ルーシエンの農場のにおいが・・・。

位置交代に時間がきた。アルウェンは入り口から解放され、白銀の剣の前へ。
ここではみんな珍しそうに展示の剣を見ている。説明パネルもあり、森を再現したブースにあるので物語風である。
アルウェンはほっとしたのもつかの間、慌てた。ワルガキが模型の森をつぶしかかっている。
「その森の木をつままないでください!」
「さわらないでくださいってぇ」と、いったのは、ワルガキを連れた学校の教師である。
「まあ、先生があれではねえ」と、首を振りながらアルウェンににっこりした老婦人。ファッションが微妙にエキセントリックである。「この剣をエンピツでスケッチしているのですがよろしい?」
「模写はご遠慮いただいております」
と、そのスケッチブックをのぞくと、模写するといっている剣とは似ても似つかない、ようちえん風景画(太陽がぐりぐりである)が描かれていた。

「ちょっとおたずねします」
やっと案内ができる。アルウェンは微笑して振りかえった。
「この白銀の剣は、レプリカでしょ?」
「本物です」と、アルウェン。「それより、その、大きなバトルアクスは衛兵にあずけていただくか…」
「いやいや。貴重品だから身につけるようにしています」

次はマスカレイドの前だった。
うようよと人が前方からやってくる。ユリアンの衣装の前に人だかりができ、よく見ると、ふられた理由とそこからの立ち直り方を書いた解説に、人々がクギ付けなのであった。誰でも迷ったときに人生の指針を求めるものだ。それも安直なやりかたで。
マスカレイドもまた人気がある。貴重な品なので、ときどき衛兵が様子を見ている。
「えー、外部の者なのですが」ナジュ人のようだ。
「はい、なにか?」笑顔のアルウェン。
「このダガーは、ロアーヌの工房で買えるですか?」質のいい刃物が大好きという顔だ。
「いいえ、非売品です。ロアーヌに伝わる宝物なのです」

「このマスカレイドはレ―――」
「本物ですってば」

聞きかけたお客はびっくりした。
「す、すいません。刃こぼれもしてないからレプリカと思ったんです」
「刃こぼれなんかしないから伝説の剣なんじゃないですか」と、傍にいた別の客が解説を始める。
「マスカレイドの起源として伝えられていることは……」
彼はロアーヌ郊外から友人とふたりできて、説明をしているのだが、2分でギャラリーができていた。
らくちんなアルウェンはしばしソファで休憩。

次はまた数分後。
ひとりの老人がマスカレイドの解説をせっせとメモしている。アルウェンを見ると老人は元気で言った。
「引退してから世界の宝物にはまっているんですよ。特に聖王遺物がワシの専門でしてな。
それでこの剣は何か名前がついているんですかね?」
中高年は歴史遺物を愛する。ときには、無思考で愛する。

アルウェンが交代でバラの前に来ると、子供が言い合いしている。
「これは本物のバラだね」
「本物なもんかー。きれいすぎるよ。きっと砂糖でできてるんだよ」
「でも香りがするもん」
「香料つかいほうだいなんだよ」
「そっか」
本物が負けた……。

アルウェンは、一日が終ってのアンケートノートを見せてもらった。
「すばらしい展示でした」ピドナ在住 21歳 公務員
「白銀の剣の展示がドラマチックで好きでした」ピドナ在住 35歳 船舶関係
「たくさんの説明パネルがわかりやすい」ランス在住 78歳 リタイア(元教師)

……
アンケートで素直に感激しているのはピドナ方面の人である。
逆に、展示を全く素直に見ないのはロアーヌ人ばかりだった。

そのようにアルウェンは手紙に書こうとして迷っている。
国際問題にならないだろうか?

*この話はフィクションです。

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