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ロマサガ3の二次創作を書いているひとのブログです。
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メタルドラゴン・ピエール

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外が嵐だと思ったのは、よく見れば大変な間違いだった。数秒で外の風景は一変していた――銀行の周囲にあった建物が一切消滅し、銀行は、紫色の渦が取り囲む空間に放り込まれていたのである。
銀行の建物がほとんど動かなかったことは不思議だったが、オリバーにはこれがアビス由来の異変であることはすぐに理解できた。彼は椅子に置いた弓にそっと手を伸ばして感触を確認し、カウンターの向こうや、書類倉庫の陰にいる人影をすばやく観察した。
「外に出られない」と、若い義勇兵がつぶやくのが聞こえた。
「うろたえるな、モス。ガーディアンと遭遇したいと言っていたのはホラか?」
ベテランの兵士のテリーがこちらを向いて、大丈夫、というふうにうなずいてみせる。
大丈夫なわけはなかった。オリバーは、カウンターの向こうにいた係員が消え、まだ幼い兄妹がそこに座っているのを見た。兄は何か機械いじりをし、妹は粘土の人形を抱えている。
「お兄ちゃん、早く遊ぼうよぅ」
妹が言う。手持ち無沙汰で人形を手荒く扱っている。
「ここが大事なんだ、いい加減にすると、出現するやつが弱っちくなっちゃう」
兄はそろわない前髪をかきあげて、手元で金具をがちゃがちゃ言わせた。
「つまんない、せっかく出られたのにぃ」
無邪気な少女のそんな発言に、オリバーは寒気を覚えた。
そして次の瞬間!

「うがあああっ!」
テリーの右足が、ひざから下で捻じ曲がった。激痛に悲鳴を上げる彼を、オリバーと仲間が助けに寄る。必死で手でおさえようとしても、左足はまるで粘土のように、簡単にちぎれとんだ。
「一体――!?」オリバーは思わず後ろを振り返る。さっきの少女は、首をかしげながら粘土人形の左足をちぎってこねくりまわしていた。そして、退屈そうに、今度は別の人形に手を伸ばす。
オリバーは先に人形を取り上げた。少女はおどろいた様子だったが、今度は兄のほうがキッとにらみつけてきた。緑色の瞳が蛍光色に光った。
「シシーのものだぞ」
「シシーも君も家に帰れ」と、オリバーは負けずに言う。
「家は疫病で帰れない。みんな苦しんで死んだ。義勇軍が来るといってトゥオルに来なかったからだ」

モスが眉を寄せた。トゥオルというのは、ヤーマス近くの小さな町の名だった。モスはヤーマスの出身で、トゥオルが疫病で全滅したことを聞いていた。オリバーは、義勇軍が薬品を運ぶ途中に山崩れに遭遇した話を知っていた。だが共通する話は、町がひとつ全滅したこと。この2人の兄妹は、疫病で死ぬ際に義勇軍を恨んでいたので、ネメシスの支配する世界に取り込まれたのだ。

実際、義勇軍が着いた頃には手遅れだったのであろう。ただ、オリバーは2人の死には同情するが、新たに人々を殺傷していいという理由にはならないと思う。人形を返すつもりはないし、恐れていないことを思い知らせてやるべきだ。
「帰れ」オリバーは静かに繰り返した。
「指図すんなよ」少年がカウンターの上の書類を一枚、すいっと滑らせる。
オリバーは叫んだ。
「よけろっ!」
すさまじい速度でドアが水平に飛んだ。モスは目をみひらいてこれを転がってよけた。背後のガラス窓がけたたましい音とともに砕け散る。
「こんなのが二度三度きたらアウトだ」
モスはオリバーと背中合わせになって剣を構えながら言った。
「アウトの前にどうにか脱出して、テリーを手当てしよう」オリバーは小声で答えた。
「脱出だってさ、シシー」少年がせせら笑う。彼はいまや作業を終えて、カウンターの上に像を組み立て終わっていた。それは、釘が飛び出した戦車に乗る古の騎士だ。片手には鞭。もう片手には、斧に近い両刃の巨大な剣を携えている。そしてそれは、ただの組み立てたがらくただったはずが、瞬く間に人間のサイズまでに大きくなり、戦車を引く黒馬がさおだちになっていななき、騎士は体慣らしをするように剣を振り回した。
「この騎士は気に入ったから、僕の名前をつける。ブローだ。行け、サー・ブロー!」
少年は自慢げに宣言した。騎士ブローはその声に従い、剣を振り下ろす。
モスは剣を突き出したが、一瞬で怪力にバキリと折られた。
「むっ」モスは青ざめて後ずさった。「強いな」
オリバーはモスを援護しようと、矢をつがえて騎士を狙っていた。
ビシッ。
矢は騎士の胸に命中したが、騎士はうっとおしそうにそれを引き抜いて床に捨てた。
きいていない。オリバーが、テリーを心配して視線を落としたそのとき。
「よう、無理するなよう♪」と、脇から声がした。オリバーは驚いた。
「パイク?」3兄弟の長男の声にあまりにも似ていたのでそうつぶやく。だが次は
「こんなときこそっ♪」これはサレットの声に似すぎ。
どうも声はオリバーの荷物の中からするらしい。
モスとオリバーは顔を見合わせ、それから両脇から同時に、かばんのふたを開いた。
チョロリン。
登場したのは、手のひらに乗るような、銀色の模型のようなドラゴン。

オリバーは、船出の前にたしかに3兄弟のところに寄った。彼らのことだから、作った精巧なオモチャを荷物にしのばせるくらい朝飯前である。だが、このドラゴンののびのびした動きは、精巧という表現を超えている。ドラゴンはサレットの声で早口に言った。
「驚いた? ピドナからここまで来るのは大変だったんだぞー。なにせ、お前、オリバー、せっかくボクの材料を貰ったのに、コーデル様の兜を作らせただろ? まあ身の上話はこの際カットだ。ボクはピエール、お前を選んだメタルドラゴンといえばわかるかねえ。挨拶代わりにそいつをぶっとばしてやってもいいよ?してほしい?ねえ、やっつけてほしい?」
オリバーは、迫ってくる騎士の剣を見つめながら答えた。
「そういうことか、ピエール、じゃあ僕も自己紹介は省く……」
彼は、びっくりして口あんぐりの義勇兵モスをちらっと見て、それから叫んだ。「力を貸せ!」
「よしきた」ピエールはクリスの声で即答した。そして、モスめがけて飛んできたガラスの破片を、つっと空中で静止させ、そのまま床に落とした。
「ちっ」少年ブローが舌打ちをする。と同時に騎士が戦車を走らせてオリバーに向かってきた。ピエールは、オリバーの荷物の上で一瞬伸びをしたと思うと、首を折り曲げ、翼を器用にたたみなおして、オリバーの手元に飛び降りた。それはいつも使う弓の数倍の大きさを持つ、銀色に輝く巨大な機械弓だった。
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メタルドラゴン可愛いです。
(そうか、オリバーはメタルと来たか!)

今回の恨みを残して死んだ子供というのが、すごく怖いと思いました。
大人以上に理屈が通じないし、罪悪感なるものを、どの程度感じるか、わからないし。

ピエールというと、ぜんまいざむらいを思い出してしまう教育テレビ好きでした。
2009.09.04 Fri  23:05 Edit
Re:ぷ
>(そうか、オリバーはメタルと来たか!)

そうなんす!これもまだ設定話があります。なんで三兄弟の喋り方をするのか、という理由など。(予想つくと思いますが)
ピエールという名前は、3兄弟の無責任な会話の中で出そうな軽い軟弱そうな名前なんですけど。(笑)
>
>今回の恨みを残して死んだ子供というのが、すごく怖いと思いました。

そそのかした者がいるのです。なまじっか即死でないと、最期の最期に人格的に転落する危うさがあると思うんですよね。子供は信じやすいから、影響も大だと。
2009.09.05 Fri  21:50
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