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ロマサガ3の二次創作を書いているひとのブログです。
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フェリックス編~何とかにつける薬
=ミュルス大聖堂=

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 フェリックスはファルスの義勇軍のもとへと急いでいた。順調に馬を走らせ、丘の向こうに大聖堂の屋根が見えてきたところで、時刻はまだお昼過ぎだった。途中のこじんまりしたパブで軽く昼食をとり、顔見知りの農夫たちと挨拶をかわし、口笛で愛馬を呼んだ。その鹿毛が頭を上下に振りながらやってきたそのとき、茂みに見え隠れする道に、見覚えのある姿が現れた。
「フェリックス!フェリックス様!」その騎士は彼を見つけると大声で叫んで、急いで馬を降りた。
「慌ててどうした? 君の部隊はもうファルスに着いている頃だろ」
 フェリックスは馬上で表情を引き締めた。何事があろうと同行しなければならない。
「大聖堂に、レインさんが、いやあの、マーゲイ隊長が、あの、さらわれまして」
 騎士は息があがっていた。かなり慌てている。
「さらわれた!?」
 冗談としても面白くないぞ、と、フェリックスは首をかしげた。レイン・マーゲイというのはロアーヌ屈指の術の使い手で、本人は現場が好きらしいがアカデミーがどうしてもと講義を依頼することがある。それはもうスパルタ教育で、エリートを自負して入学してきた若い術使いたちは、たった数回のレインの白虎術クラスの後にごっそりいなくなる。そして、普段は不人気なはずの玄武術クラスが定員オーバーになるのだった。フェリックスは、余りにも人数が少ないので一度くらい出席を、と頼まれて彼女のクラスに出たことがある。フェリックス自身が優秀ということもあったが、何しろ綺麗な女の人には弱いので、何を言われてもはいはいと素直に聞いた。レインはというと、フェリックスが剣を主体に使いながら術で補完できることがないか模索する姿勢に、他の学生にはない柔軟性を見出して感心した。その後、彼女は論文を出し高評価を得たが、そこにはフェリックスにヒントを得たところも多々あったという。フェリックスのほうも、最前線で武器なしで戦えるレインの術レベルの高さには今も敬意を払っていた。
 
 そのレインが、拉致された。敵が只者でないのか、レインの側に何か決定的に弱点でもあったのか。
場所は大聖堂とはっきりしているので、フェリックスは騎士とともに馬をとばした。
 騒ぎは街中にも広まっていた。レインの部隊は日ごろこの大聖堂を中心に、ミュルスの警護に当たっているので、ミュルス住民も不安で騒いでいるのだ。司教はフェリックスに、何としてもレインを救ってほしいと懇願した。
 大聖堂の中に入ると、部隊のほかの面々も心配そうに近づいてきた。フェリックスは次の扉の隙間をちらっとのぞいて言った。
「先生……レインはどうしたんだ? 相手は何か要求してるのか?」
「地下にこもって、結界を張っているので様子も分からないんです。医師と言ってそこの宿屋に泊まっていた若い男なのですが」
「レインが捕まったときの様子は?」
「相手はレイン隊長を最初から狙ってナイフを投げてきました。隊長はすぐに術で叩き落しましたが、相手が何か術を発動しかけたのを見て聖堂へ走りこんだのです。我々は追いかけ、階段から落下していく2人を見ました。結界は落ちながら張られたようでした」

 広い螺旋階段が階下へと続いているが、それは今のように薄暗いと、まるで海の底にいる巻貝の化石のような姿だった。その階段しか通路はないのに、そこに強力な結界が張られ、降りて行けないのである。だがフェリックスは、慎重に結界の範囲を術の熱によって感覚で測ってみて気付いた。術の応用問題か? フェリックスは少しの間考えて、中央の空間部は、自分の太陽術で頑張れば突破できないこともないと結論づけた。
おもむろに手すりに飛び乗ったフェリックスを見て、騎士たちが引きとめようとした。
「何やってるんです! 下までどれくらいの深さがあると思いますか、そこは吹き抜けなんですよ」
 フェリックスはにやっと笑った。「心配ない。ただし、行くのはオレ一人だ」
言うなり、フェリックスは螺旋階段中央の吹き抜けに飛び込んだ!
 司教もその飛び込みっぷりには息を呑んだが、フェリックスは平然と闇の中を落下していった。思ったとおり、白虎と太陽の術を融合させると、見えないクッション性のあるパワーが機能して、フェリックスは安全にふわりと底に降り立った。ただし持てる術力はここまでで、あとは剣に物を言わせるつもりだ。

 そこは、意外と狭い、聖堂の地下室入り口だった。ここは、フェリックスさえも来たことがない、本来は開かずの間である。奥には古い祭壇があって、蝋燭がともされている。その脇に若い、旅行者風の術使いが立っていて、レインは部屋の右端で柱に縛り付けられていた。暗いので、彼女がどうなっているのか見えにくいが、黒髪がウェーブした頭は垂れ、くすんだ緑のマントの下の手は微動だにしない。
「よくも、やったな」小声で呟き、フェリックスは剣に手をかけた。
「お前は、フ、フェリックスだな!」敵は甲高い声でわめいた。「そうだ、前からお前をやっつけたかったんだ」
「はあ!?」
 フェリックスはイラついて言った。「オレを知ってるというのか、誰だお前」
「くそったれ、ツヴァイクのトーナメントだよ! 予選でお前たちと当たり、敗退したから何も貰えなかった。お前たち、貴族ばかしで華やかで強くて、会場の人気者だったよな! おかげでオレたちは!」
 男はナイフを投げてきたがでたらめのほうへとんでいった。男といってもよく見ればフェリックスと同年代。トーナメントで戦った記憶は、残念ながらやはりない。フェリックスは構わず部屋を進み、レインのロープをさくっと切った。彼女は、何と寝ているだけだ。フェリックスは再度、冴えない若者に振り返って言った。
「トーナメントってのは勝ち抜き戦だぞ。負けて逆恨みされたくないね」
「オレの恨みはそれだけじゃないっ。冒険者を諦めてピドナで医学校に入って、薬を発明した」
「それはおめでとう。たいしたもんだ」
「ちゃちゃ入れるんじゃないっ。畜生、オレが苦労して作った薬は、ナジュでは古来からある胃薬と成分が同じだと論文でこき下ろされて! えい、もうやけくそだ」
「論文?」フェリックスは顔を曇らせた。「まさかレインが書いた論文か?」
「違う、ああいうのは難しくて読め--いやそれより、聞いて驚け」
「何だよ」フェリックスは腰に手を当て、上から目線できいてやった。
「オレは、とうとう理解者を見つけたわけだ。力になると言うすごい魔術師が現れた。聖ヒルダの日にそこの女を連れてくる条件で」
「おい。怪しいだろ、魔物くさいだろ、この日に誰かをさらうことが条件なんて」
「む」
 彼はこのとき本気で、この話を疑い始めたようだ。フェリックスは呆れた。そのとき。
「ったく、マヌケにもほどがある!」
 そのちょっとハスキーな声に、フェリックスはどきっとした。雰囲気が、レインのスパルタ講義そのままだ。振り返ると、小柄な術使いが祭壇そばの司教用の椅子に、足を組んで座っていた。
「こいつはどうしましょう、先生?」
「フェリックス、どいてなさい。その小僧には思い知らせる必要がある」
「小僧ってゆうなっ」
「そういや名前も聞いてなかった、結局」
 フェリックスが肩をすくめると、レインが言った。
「ジム・マーゲイ。私の弟なのよ。出来が悪いのは知っていたけど、ここまでのろくでなしとはね」
「姉さまには凡人の苦労がわからない。そもそも姉さまは底意地が悪いんだっ」ジムがわめくが、段々と泣き声に近づいている。
「なるほど。君ら似てないね」フェリックスは普通にコメントした。
「この人ってば、術を習ったけどものにできず、剣に転向したけど腕力がなくて話にならず。せっかく医学校に入ったのに、薬をこき下ろされたくらいでやけを起こすなんて。愚か者というのはこの小僧のことよ」
「でもここへ拉致してやったぞ」
 口を尖らせるジムを見て、レインはさらに強い口調で言った。
「威張るんじゃないっ」
「ぐへっ」
 術が放たれたのかとフェリックスは思ったが、実はレインがげんこつを見舞ったのである。ジムはこぶが出来た頭をさすりながらしゃがみこんだ。
レインは結界を張るのに使った術力がまた戻るまで、やられたフリをして休んでいたのだった。それは勿論、その後で強大な術を使うためである。
「私がミュルスの警護を任されている理由の一つは、先々代の大司教の血縁に当たるから。大聖堂は大昔の墓所を基に建っているけど、その墓所というのは、死体の数が多すぎてきちんとした埋葬もできなかった時代のね。この開かずの間はその地下墓所への通路を封じ、定期的に慰霊する祭壇なのよ。封じたというのは、そうしないと危険だから」
 ジムはひねくれた目を姉に向ける。レインは術を発動する構えを見せながら話し続けた。
「危険というのは、意味わかるわね?」
 なるほど、と、フェリックスは真顔で考えた。
 今日は聖ヒルダの日。異界との境界線が甘くなり、地下墓所の何千という死者が地上に噴出する機会を窺っている。この開かずの間で下手に強力な術を使えば通路が開き、彼らに出口を与えてしまうのだ。レインが誰も入れないように結界をめぐらせた理由、それは、ここで万一の事故が起きた場合に、外部の者を巻き込まないためだった。いや、危険はそれだけではない。敵がジムに興味を持ったきっかけは、彼が医学をやっていたからだ。
 論文で批判された? それは一体誰の書いたものだ!?

 フェリックスはジムの襟首をつかんでいった。
「お前、誰に唆されたんだ。まさかモレスコじゃないだろうな!?」
「ははん、やっぱりな、有名人だと思った」
「やっぱりね、何もわかってない!」
 レインの白虎術が発動した。ジムの周囲の石床がガンガンと激しい音を立てて浮き上がり、宙を漂ったあと、風で吹き飛ばされたようにジムを取り巻いた。そして落下した。
 大聖堂全体に轟音が響き渡る。
「な、何だ!」
 石はジムの周囲にぎっしりと詰まっていった。傷つける動きではないが、肩まで身動きが取れない深さに積みあがっている。
「このまま殺す気か、鬼!」ジムは泣き言を言った。

 レインはそこで術を止め、ため息をついた。
「フェリックス。申し訳ないけど、私はしばらくここを離れられないわ。責任を持ってここを封じなければ」
「彼はどうなるんです?」フェリックスは尋ねた。
「今夜は、あのまま。じゃないと保護できないから。薬の研究や私をさらえとは口実で、モレスコはジムを異界の何かに吸収するのが狙いだと思う。何しろ、彼は術の潜在的パワーは私より強力なくせに、本人に自覚がないのよ。けれど自己制御されていない術力は、アビスの者を引き付ける」
 レインは、さすがに疲れたらしく、転がっている石柱のひとつに腰を下ろした。
「上の部隊が心配してるだろう。援護に呼ぼうか?」
「そうね、来てくれれば心強いわ」
 そしてちょっと寂しげに微笑んだ顔が、蝋燭の淡い光と溶け合って何とも美しかった。
「オレは?」と、自分も残ろうと半ば心に決めて、フェリックスは尋ねる。
 レインは、あ、そうだ、という顔で答えた。
「階段の結界は解かなきゃね。あなたには昇って帰ってもらうことになるけど、9635段」


 次の朝早く、フェリックスは船に乗った。レインたちは無事だと部下の騎士が一人見送りに来た。フェリックスは、あとで合流するという騎士に桟橋から手を振った。
 フェリックスがまだガクガクする足で無理やり軽やかに歩くのを見ていたのは、デッキに寝そべっている黒猫だけだった。
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