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ヒサビサの更新すみません。
~ジョカル編・リブロフ港
ロサの村を通過し、リブロフへさしかかったジョカルは、まさか銀行で大爆発があったとは知らなかった。通りは瓦礫の山になり、道路が寸断され、パブが大きく傾いている。義勇兵たちは周辺住民の避難を手伝い、片付けに追われている。ジョカルは急いでオリバーを探した。リブロフに戻ってオリオールからの手紙を受け取る手はずになっていたのを知っていたのだ。
だが町へ入るとすぐ、兵士モスがやってきて、オリバーは無事だといち早く知らせた。
「それならいい、兵士に負傷者は?」
「1名だけです。重傷ですが、本人は次の船でピドナへ戻るつもりだと」
ジョカルはうんとうなずき、「で、船はすぐに出そうなのか?」
トゥルカスに留守を預けてきたのだから、自分はできるだけ早くファルスへ戻らねばならない。
「それがとても無理なんです」モスが言いかけたとき、
「ジョカル!」
オリバーが宿舎から出てきて彼を見つけた。
「銀行が吹っ飛んだときいてぞっとしたぞ」
「僕はなんとか無事だった。テリーがやられたけど、意識はしっかりしてる」
「それで、船が出ないってどういうことなんだ」
2人は歩きながら話し出した。
「港が爆発の影響で破壊されて、船が一部浸水してるらしい。修理してるんだけど、なかなか直らないんだ」
ジョカルは奇妙な感じがした。来て見ると、港は確かに派手にレンガが崩れて、船が破損するのもわかる。けれど、修理にすでに半日費やしているというのに、まだ浸水するほどひどい状態になるのだろうか?
修理は、リブロフの技術者と、船の仕事をしていたと名乗り出た30代の義勇兵センティほか、経験のあるリブロフ兵数人でやっているという。オリバーも、実は早くピドナへ帰りたがっていて、船がなかなか出港できないのをもどかしく感じているようだった。
「オリバー、名簿を一応確認しとこうか、ちょうどそこに持っているようだし」
「?それは、構わないけど?」
オリバーはそれこそ偶然に名簿を手にしていた。負傷者のチェックと、ピドナに戻る兵士の数を確認する必要もあったからだ。ただ、最終チェックは船に乗り込むときでいいと思っていた。ジョカルが今それをしろというのは、何か思いついたに違いない。
「手分けして、すぐに名簿と本人確認をしてみるんだ」
「わかった」
名簿はコピーが3部あるので、オリバー、ジョカル、モスとで手分けして周辺へ散った。オリバーはリブロフの町へ、ジョカルは船の周辺、モスは中で修理や整理に当たる人員をチェックにかかった。
オリバーは、町に散らばって住民を助けている連中を要領よく確認することができた。そして、ピドナの義勇兵が気持ちよく復興を手伝ったというので、何人かの漁師は船でピドナへ送ろうかとまで言ってくれた。オリバーは本当はその言葉に甘えたかったけれども、リブロフからピドナまで漁船で渡ることはとても危険だとわかっていた。漁師の人たちを危険に巻き込むわけにはいかない。
丁寧に断って港へと戻りながら、路地を歩くオリバーは悄然としていた。今なら海は穏やかだし夜までには間がある、それなのに、船は出ない。今まで近いと思っていたピドナがいやに遠い。
その気持ちを読み取ったかのように、背中のバッグからピエールが言った。
「コーデル様が心配ならそう言えよバカヤロウ」
オリバーはびくっとして立ち止まった。メタルドラゴンはバッグの中から首をひょいと出す。
「船は、当分動きゃしないぜ、黙って待ってるつもりかよ?」
「そう言っても……陸路は遠すぎる」オリバーは蚊の鳴くような声で応じた。「義勇兵を束ねてここへ来た責任もあるし」
「じれったいヤツだな。ピエール様が猶予を15分やる。その間にここへ来た責任とやらにカタをつけて来い。この路地に来い、いいな!」
そしてピエールはバッグから勢いよく飛び出し、中空で再度怒鳴った。
「15分でカタをつけられないようじゃあ、お前との間はこれっきりだ。わかったな、とっとと行きやがれ!」
「ピエール!?」
オリバーは、銀色の小型ドラゴンが空中でスパークして目の前から消えるのを見てびっくりした。今まで変な模型と話をしていた気がしないでもなかったが、そうではなくて、不思議な力を持った本物の、一種のドラゴンだったのだ。コーデルを助ける手伝いをするかのような口ぶりのドラゴン、それが腹を立てて消えてしまった。しかし15分でここへ戻れたとして、船もないのにあのドラゴンがどうしようというのだろうか?
そのとき町の時計台が4時を打った。時間がどんどん流れていく。
オリバーは、もう考えることはせずに、慌てて港へと走っていった。
ジョカルも名簿のチェックをすませ、モスを手伝うついでに浸水被害を見ようと、船底へと降りていった。階段は狭く奥は薄暗いが、そこからモスの元気のいい声が聞こえていた。
「チェーック! ご苦労さん、そこの修理は完璧だね」
「モス」とジョカルは声をかけたが、ちょうど時計の音がかぶさった。仕方がない、と、ジョカルは自分も下へと降りていった。
「やれやれ、なんで名簿チェックかねえ? みんないるに決まってるじゃないか」モスはぶつぶつ言いながらセンティが修理をしている船尾の奥へと入り込んだ。
「どうしていまさら面倒な人数確認なんか?」
センティは手際よく工具を移動させながらモスに言った。
「うん、オレも早くトゥオル村を調べに行きたいんだよ。でももうこれで、つまりあんたで終わりだし――」
モスの軽快な口調は突然途切れた。
薄暗がりの船底で、モスはランタンを掲げ、自分の見間違いでないか何度も名簿をめくった。
名簿はアルファベット順である。センティはCで始まるので、ブラッドリーとダンテスの間になければならない。
「あれ?あんたのつづり、Sだっけか?」
ぶつぶつ言うモスに、センティは手を止め、乱れた長めの黒髪をざくっとかきあげた。
「Sじゃない。Cだ。センティ・ネルってないかい? 誰かが書き忘れたのだよ、困った人たちだねえ」
その声にモスは不意に寒気がした。
「センティ、ネルだって?」
そして彼のした仕事のあとに思わず視線が飛んだ。暗さに慣れたモスの目は、センティの触ったあとから海水が染み出しているのをはっきりととらえた。名簿にないのは、彼が、敵だからだ! モスは逃げ場もなく、剣は船底では作業の邪魔になると置いてきてしまっていた。だがさっき感じた一瞬の恐怖は消え、義憤がモスを突き動かした。
「お前は、何者だ!」
センティの両目が不気味な黄色に光った。
「名乗った通りさ、センティネル、つまり暗殺者だよ」
右手には銀色に光る大きな鎌が握られていた。センティが飛び掛ろうとしたとき、戸が開いて、ジョカルが体当たりした。
ドサッ!
ダンッ!
モスが階段下に転げるのと、センティの鎌がその数センチ脇に突き立つのが同時だった。
ジョカルとセンティがにらみ合う。モスは身軽に何段か階段の上に乗って叫んだ。「こいつが浸水の原因です!」
「そんなことだろうと思った!」
ジョカルはカムシーンではなく、ロサにもらったダガーと剣とを構えていた。足元には海水が染みてくるが、軽装のジョカルは平気だった。センティは首を、こりをほぐすような動作で回しながらジョカルを挑発した。首にチーフに黒い鎖のマークが見えるが、それはまさしくテント社のマークである。
「ジョカル・カーソン・グレイ? やっとおでましかい。アクバー峠の礼をしに来たよ」
「なるほどそんな頃合だ。義理にも歓迎とは言いかねるがな」
ジョカルはそういいながら、センティが人間離れした動きで宙へ浮くのを見ていた。この敵は強力な術の使い手であり、そして、こんな狭い空間で鎌を自在に操る。そのセンティから見て、ジョカルの剣の構えもまた寸分の隙もない。
2人は、にらみ合ったままピタリと動かない。その足元にじわじわと海水が染み出していた。
~ジョカル編・リブロフ港
ロサの村を通過し、リブロフへさしかかったジョカルは、まさか銀行で大爆発があったとは知らなかった。通りは瓦礫の山になり、道路が寸断され、パブが大きく傾いている。義勇兵たちは周辺住民の避難を手伝い、片付けに追われている。ジョカルは急いでオリバーを探した。リブロフに戻ってオリオールからの手紙を受け取る手はずになっていたのを知っていたのだ。
だが町へ入るとすぐ、兵士モスがやってきて、オリバーは無事だといち早く知らせた。
「それならいい、兵士に負傷者は?」
「1名だけです。重傷ですが、本人は次の船でピドナへ戻るつもりだと」
ジョカルはうんとうなずき、「で、船はすぐに出そうなのか?」
トゥルカスに留守を預けてきたのだから、自分はできるだけ早くファルスへ戻らねばならない。
「それがとても無理なんです」モスが言いかけたとき、
「ジョカル!」
オリバーが宿舎から出てきて彼を見つけた。
「銀行が吹っ飛んだときいてぞっとしたぞ」
「僕はなんとか無事だった。テリーがやられたけど、意識はしっかりしてる」
「それで、船が出ないってどういうことなんだ」
2人は歩きながら話し出した。
「港が爆発の影響で破壊されて、船が一部浸水してるらしい。修理してるんだけど、なかなか直らないんだ」
ジョカルは奇妙な感じがした。来て見ると、港は確かに派手にレンガが崩れて、船が破損するのもわかる。けれど、修理にすでに半日費やしているというのに、まだ浸水するほどひどい状態になるのだろうか?
修理は、リブロフの技術者と、船の仕事をしていたと名乗り出た30代の義勇兵センティほか、経験のあるリブロフ兵数人でやっているという。オリバーも、実は早くピドナへ帰りたがっていて、船がなかなか出港できないのをもどかしく感じているようだった。
「オリバー、名簿を一応確認しとこうか、ちょうどそこに持っているようだし」
「?それは、構わないけど?」
オリバーはそれこそ偶然に名簿を手にしていた。負傷者のチェックと、ピドナに戻る兵士の数を確認する必要もあったからだ。ただ、最終チェックは船に乗り込むときでいいと思っていた。ジョカルが今それをしろというのは、何か思いついたに違いない。
「手分けして、すぐに名簿と本人確認をしてみるんだ」
「わかった」
名簿はコピーが3部あるので、オリバー、ジョカル、モスとで手分けして周辺へ散った。オリバーはリブロフの町へ、ジョカルは船の周辺、モスは中で修理や整理に当たる人員をチェックにかかった。
オリバーは、町に散らばって住民を助けている連中を要領よく確認することができた。そして、ピドナの義勇兵が気持ちよく復興を手伝ったというので、何人かの漁師は船でピドナへ送ろうかとまで言ってくれた。オリバーは本当はその言葉に甘えたかったけれども、リブロフからピドナまで漁船で渡ることはとても危険だとわかっていた。漁師の人たちを危険に巻き込むわけにはいかない。
丁寧に断って港へと戻りながら、路地を歩くオリバーは悄然としていた。今なら海は穏やかだし夜までには間がある、それなのに、船は出ない。今まで近いと思っていたピドナがいやに遠い。
その気持ちを読み取ったかのように、背中のバッグからピエールが言った。
「コーデル様が心配ならそう言えよバカヤロウ」
オリバーはびくっとして立ち止まった。メタルドラゴンはバッグの中から首をひょいと出す。
「船は、当分動きゃしないぜ、黙って待ってるつもりかよ?」
「そう言っても……陸路は遠すぎる」オリバーは蚊の鳴くような声で応じた。「義勇兵を束ねてここへ来た責任もあるし」
「じれったいヤツだな。ピエール様が猶予を15分やる。その間にここへ来た責任とやらにカタをつけて来い。この路地に来い、いいな!」
そしてピエールはバッグから勢いよく飛び出し、中空で再度怒鳴った。
「15分でカタをつけられないようじゃあ、お前との間はこれっきりだ。わかったな、とっとと行きやがれ!」
「ピエール!?」
オリバーは、銀色の小型ドラゴンが空中でスパークして目の前から消えるのを見てびっくりした。今まで変な模型と話をしていた気がしないでもなかったが、そうではなくて、不思議な力を持った本物の、一種のドラゴンだったのだ。コーデルを助ける手伝いをするかのような口ぶりのドラゴン、それが腹を立てて消えてしまった。しかし15分でここへ戻れたとして、船もないのにあのドラゴンがどうしようというのだろうか?
そのとき町の時計台が4時を打った。時間がどんどん流れていく。
オリバーは、もう考えることはせずに、慌てて港へと走っていった。
ジョカルも名簿のチェックをすませ、モスを手伝うついでに浸水被害を見ようと、船底へと降りていった。階段は狭く奥は薄暗いが、そこからモスの元気のいい声が聞こえていた。
「チェーック! ご苦労さん、そこの修理は完璧だね」
「モス」とジョカルは声をかけたが、ちょうど時計の音がかぶさった。仕方がない、と、ジョカルは自分も下へと降りていった。
「やれやれ、なんで名簿チェックかねえ? みんないるに決まってるじゃないか」モスはぶつぶつ言いながらセンティが修理をしている船尾の奥へと入り込んだ。
「どうしていまさら面倒な人数確認なんか?」
センティは手際よく工具を移動させながらモスに言った。
「うん、オレも早くトゥオル村を調べに行きたいんだよ。でももうこれで、つまりあんたで終わりだし――」
モスの軽快な口調は突然途切れた。
薄暗がりの船底で、モスはランタンを掲げ、自分の見間違いでないか何度も名簿をめくった。
名簿はアルファベット順である。センティはCで始まるので、ブラッドリーとダンテスの間になければならない。
「あれ?あんたのつづり、Sだっけか?」
ぶつぶつ言うモスに、センティは手を止め、乱れた長めの黒髪をざくっとかきあげた。
「Sじゃない。Cだ。センティ・ネルってないかい? 誰かが書き忘れたのだよ、困った人たちだねえ」
その声にモスは不意に寒気がした。
「センティ、ネルだって?」
そして彼のした仕事のあとに思わず視線が飛んだ。暗さに慣れたモスの目は、センティの触ったあとから海水が染み出しているのをはっきりととらえた。名簿にないのは、彼が、敵だからだ! モスは逃げ場もなく、剣は船底では作業の邪魔になると置いてきてしまっていた。だがさっき感じた一瞬の恐怖は消え、義憤がモスを突き動かした。
「お前は、何者だ!」
センティの両目が不気味な黄色に光った。
「名乗った通りさ、センティネル、つまり暗殺者だよ」
右手には銀色に光る大きな鎌が握られていた。センティが飛び掛ろうとしたとき、戸が開いて、ジョカルが体当たりした。
ドサッ!
ダンッ!
モスが階段下に転げるのと、センティの鎌がその数センチ脇に突き立つのが同時だった。
ジョカルとセンティがにらみ合う。モスは身軽に何段か階段の上に乗って叫んだ。「こいつが浸水の原因です!」
「そんなことだろうと思った!」
ジョカルはカムシーンではなく、ロサにもらったダガーと剣とを構えていた。足元には海水が染みてくるが、軽装のジョカルは平気だった。センティは首を、こりをほぐすような動作で回しながらジョカルを挑発した。首にチーフに黒い鎖のマークが見えるが、それはまさしくテント社のマークである。
「ジョカル・カーソン・グレイ? やっとおでましかい。アクバー峠の礼をしに来たよ」
「なるほどそんな頃合だ。義理にも歓迎とは言いかねるがな」
ジョカルはそういいながら、センティが人間離れした動きで宙へ浮くのを見ていた。この敵は強力な術の使い手であり、そして、こんな狭い空間で鎌を自在に操る。そのセンティから見て、ジョカルの剣の構えもまた寸分の隙もない。
2人は、にらみ合ったままピタリと動かない。その足元にじわじわと海水が染み出していた。
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